WORKS

無柱ガレージの3層住宅

Kanagawa,2021 house

OVERVIEW

都心に近い中高層住宅地の新築計画。施主夫妻と子供2人の住宅である。敷地は既存の古屋が解体されおり、更地になった状態である程度の月日が経過していたところに、今回の施主である夫妻が本土地を購入し住宅を建てる予定で土地検討の相談があった。

土地はバス通りに面した交差点に近く、メインとなる道路の交通量は比較的多かったが、道路から奥側の東側にむけて、土地が傾斜している台地の頂上付近に位置しており、眺望が望めそうであることを確認する。


比較的密集した住宅地。奥に長い長方形で、バス通りと小道に面した角地

「木造3階建ての並列ビルトインガレージ」 と 「防火水槽の撤去」

本計画を進めるにあたり、大きな2つの難題があった。

1つ目は、車が好きな施主がビルトインガレージを要望していたが、3階建ての木造の1F部分に2台分+αのガレージを格納することを望んでいたこと。土地の間口からすると、ぎりぎりで並列に2台分駐車できるが、予算配分の兼ね合いで建物は木造で計画する必要がある中で、構造耐力上必要な壁(耐力壁)を建物の短手方向に設ける必要がある。その場合、並列で2大分の駐車をすることは不可となり、縦列で2台を格納するようになる。

交通量の多い全面道路かつ、交差点近くであるがゆえに信号待ちで駐車している車も多く、格納する奥の車を出す際に、1台を道路に止めておき、奥の車をだして、またガレージへと戻すという行為自体が、立地上困難であることが予想された。

また、仮に並列で2台の駐車スペースを確保できたとしても、今度は車と車の間に柱が出てくることで、駐車の邪魔になってしまうこと。この耐力壁問題と中間の柱をなくせるかどうかという問題が1つめの大きな問題点である。

2つ目は、建物の計画をする前段階の話で、敷地の下部に現在は使われていない「防火水槽」が埋まっているので、建てる前に取り除く必要があるということ。この防火水槽は、小さなものであれば、撤去は容易だが、想定される大きさが、半径5m深さ5m程度のコンクリート製のふたが付いた構造体で、正確な位置や大きさが、当時の図面からでは判断できず、掘ってみないとわからないという状況。

上記の2点が、本計画をする上でクリアしなければいけない条件となった。
結果として建物は希望通りに立っているので、すべての条件をなにかしらの方法でクリアしていった経過を紹介する。

まずは、2つ目の防火水槽から。


防火水槽の位置

防火水槽は、資料によると昭和17年に設置されたものだった。そもそそも、防火水槽とは何かというと消防活動をする際に、現在ほどインフラが整っていなかった当時、各所に大きな水槽をつくり消防活動をするための水をためておく水槽だ。(昭和17年は、丁度太平洋戦争が始まったころ。昭和16年の12月に日本軍が真珠湾を攻撃したので、この防火水槽は、そうした戦争への準備で各所に設置されたのかもしれない。)

資料による防火水槽の位置は、現在では敷地と南側の通路にまたがって埋まっており、通路を挟んだ向かいの建物に近い。防火水槽を全て撤去することを想定した場合、埋まっている位置が隣地に近い場合は、隣家の地盤への影響がでるため全ての撤去が難しくなる。防火水槽が埋まっている位置は、当時の資料から正確に判断できず、まずは試掘してみることとなった。


試掘後、姿を現す防火水槽の蓋

試掘した後、新たな状況が2つ判明。1つは、想定よりも隣地に近く全撤去するには隣地を一部壊さないとできない程。もう1つは、記載のない上下水等のインフラが防火水槽の上を通過しており、切り回しすることが不可能だったため撤去する方針を全撤去から、敷地内に影響がある範囲を部分撤去することに。これらのやりとりは、消防局と行っており数か月の時間が経過している。


防火水槽を撤去した穴の風景

方針を確定し、防火水槽の撤去へ。結局深さは5m程あり、巨大な穴が敷地に空いた。水槽はコンクリート製で厚さ20~30㎝程度の無筋コンクリート(鉄筋のないコンクリート)の壁で作られていた。コンクリートに鉄筋がないと強度がでないが、鉄筋は当時貴重だったのかもしれない。埋め戻しは固化材を混ぜた土によって固める。以上をもって土地の残存物の撤去は終了し建物を建てられる運びとなった。

ビルトインガレージの課題に関しては、上記の通り、1Fに並列2台の駐車スペースをとる計画でスタートしたが、一般的に木造建物の場合は、X方向Y方向それぞれに壁がバランスよく必要で、更に3階建てとなるとその1階部分に特に壁量が必要となる。特に最も開いてほしい駐車場の出入り口のシャッター付近に必要だ。

耐震の等級を3に設定したいという施主からの要望もありガレージの間口と壁量の問題を試行錯誤することに。こうした壁量問題を解決する手段として、採用することになったのは、「耐震開口フレーム」というもの。


耐震開口フレーム設置位置


耐震開口フレーム施工写真

通常の軸組の内側に補強として角が金物で剛接合されているフレームをガレージの開口部付近に多数入れ込み、建築基準法上必要な壁量の1.5倍をクリアすることができた。
約6mに近い大スパンも、この開口補強フレームによってクリアすることができ一石二鳥となる。並列2台の無柱ガレージは、車の出し入れも容易で非常に使い勝手のよいガレージとなった。


並列2台駐車を可能にする開口

また、断面の計画は東側の眺望を生かすという意図で、3階にリビングダイニングを設け、こちらも無柱の大空間とし、合わせて地続きの大きなバルコニーを計画している。

バルコニーの開口部は、引き込み型の引き分けサッシを採用し、約3.5mの間口が全開する仕様に。防火が求められる地域の場合は、この既製品サッシは利用できないが、サッシの外側に防火仕様のシャッターを設けることで実現した。眺望のよいバルコニーと一日中明るいリビングで、快適な空間を実現している。また、ガレージを優先したプランの形式上できた長い廊下は、幅を1m程度に広げゆったりとした通路とし、日々の移動にストレスがないように配慮している。

住宅建築というと、建物の内装や設計計画の内容に着目されがちだが、こうした建物を建てる前段階でも様々な土地の状況があり、住まいができるまでに紆余曲折の経緯があることも多い。本事例では、そうした前段の経緯が特殊であったため長文で掲載した。これから住宅をたてる方への参考になれば幸いである。

ちなみに、防火水槽撤去のより詳しい当時の経緯はこちらまで

所在地:神奈川県横浜市
用途地域:第一種住居地域(準防火地域)
規模:約171㎡(ガレージ含)
主用途:住宅
竣工:2021年
意匠計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
照明計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
構造設計:川田知典構造設計
施工:株式会社創建建設
写真:渡邊 聖爾