WORKS

庭と緑と本棚のある住宅

kita-kamakura,2023 house

OVERVIEW

「庭と植物と暮らす・明るい住空間」

与条件:奥まった土地に、明るい空間を

 鎌倉市の夫婦と子供2人が暮らす住宅の新築計画である。親族が住む、街道沿いの大きな所有地の一角を取り壊し、そこに住居を新築する計画だ。敷地は、接道する小道から更に奥の方へとアプローチする少し奥まった場所にあった。施主からの要望は、主に家で仕事をするクリエイティブな職種柄、一日家にいても外を感じられるような明るい空間であること、本に関わる仕事なため大きな本棚が必要であること、植物が感じられる庭をつくり、外の空間も使えるようにしたい等の漠然としたイメージをいただいた。当然、在宅ワークをするためのスペースも必須であった。


小道から入った奥まった敷地・隣地には親族が住んでおり、そちら側の境界線は曖昧で地続きで使うことができた。

 現地は奥まっていた立地であったので、家のつくり方によっては、暗く風通しの悪い閉塞感のある場所になってしまうが、隣接する土地には駐車場や、小川、隣家の庭などがあり、比較的開放感があったため、そうした外部空間が連続して新築する家の内部へと繋がるような開放的な庭のような室内とすることを思い浮かべた。奥まった立地なので、逆に考えると通行人からの目線がないことや、隣地には親族が居住していることなども踏まえると、そうした開放的な住み方が、本立地であれば可能だと考えた。

「空間を外に開く」

庭が必須であったので、リビング等の居住空間は必然的に1Fとなったので、1FにLDK、2Fにプライベート水回りや居室をまとめるという単純なゾーニングとしプランも敷地に沿ったシンプルな矩形となった。単純なプランの一方で、内外を繋げる手段として2Fの床を通常よりも1m程度持ち上げ、1F全体を天井高3.5m程度の大きな空間として、開放的な隣地空間からの光をとり込むように大きく開口を設けた。


2Fの床を持ち上げ、天井の高いLDKをつくる

開口部は、天井に近い採光や、空が見える眺望をメインとした窓と、庭へ出ることや採風、植物を鑑賞するための窓の上下2段の役割をつくり、その上下の窓を分けるように水平の棚を設け、植物や本が置けるようにしている。リビングからは、庭や隣家の木々が見え、天井に接する窓からは空が見える。一般的な家よりは、開口部が多い計画であるが、外部からの視線は少ないので外にいるような開放感を得ることができた。

「LDKを屋外空間で挟む」

また、本住宅にはLDKを挟むように2つの屋外スペースを設けた。1つは、玄関先、もう一つは庭とリビングが繋がる縁側だ。玄関側は、1Fより約2.7m張り出した2Fが駐車場の屋根として機能している。この広々した無柱の屋外空間は、車をどければ、隣家の庭とつながる場所となり、屋根があるのでバーベキューやちょっとした集まりの場としても機能する、セミパブリックスペースだ。もう一つの庭と繋がる縁側にも1.3m程度の庇を設け、その下にウッドデッキをつくっている。こちらは、プライベートな外部空間として設計した。庭にでて植物を鑑賞したり、外でご飯を食べたりできる空間とした。玄関側と庭側の両方に種類の異なる外部空間を設け、それらをつなぐようにLDKがあることで、室内外が連続する外部空間の延長のような室内となるように考えた。


周囲の空地をつなげるように考える

「プライベートエリアとリビングを繋げる、ワークスペース」

ワークスペースは、持ち上がった2Fと1Fに3畳ほどの中間フロアを設けその場所を割り当てた。作り付けの本棚や造作カウンターを設けている。リビングから2Fへとスキップフロア状に連なる空間の中間にあるこの場所からは、庭で遊ぶ子供たちや、寝室から降りる子供たちが見え、住まい全体を見渡すことができる。仕事をしていても、家族の気配がわかるようなワークスペースという要望は、当初からの施主の希望であった。天井の高い本棚は大工さんによる造作のもので、棚板が壁内部まで飲み込まれているので補強のブラケット金物を取り付けず強度を確保している。

「公園のような楽しい住まい」

屋外のような開放的で天井の高いLDKには、低い収納ボックスが設けられている。その上部は、天井高さ1.4m以下の小さな空間があり、ボルダリングを習っている子供が上っていける遊具のようになっている。3.5mの高い天井とその中に差込まれた低い空間のコントラストが、子供の好奇心をくすぐり、秘密基地のような場所となる。


断面空間を生かして計画する

「2Fはプリベートエリアに」

内外が連続するような、開放的な1Fまわりとは対照的に、2Fは各個室やWIC、水回りなどを集約した、プライベートエリアとした。寝室や水回りWICが近い距離で計画されているので、日々の生活動線も短くなる。最上部にはロフトを設け、大容量の収納空間とした。マンションと違い戸建てのいいところはこの収納量にあると思う。日々のちょっとしたストックスペースがあるだけで、家の中は容易に片付けることができる。

「自然と近い距離感をつくる」

近年の現代生活では急速にIT化が進み、スマホやPCがなくてはならない世の中となった。子供たちも自然に触れるよりも先に、携帯の画面から得る情報の方が必然的に多くなっている。仕事の内容もそうした、情報化社会の中では、デスクワークが主で一日中PCとにわめっこしている人も多いだろう。そうした中で、今現在は、住まいと自然との距離感が問われているように思う。脅威である自然から切離すのではなく、切り離しながらも適度に繋げていく自然との丁度良い距離感がつかめると、現代人が住むための家として新しい役割を担えるのではないだろうか。

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「建物を建てるまでの経緯」
本計画では、大きな親族所有地の一角に新たに住宅を建てる計画となっていたため、敷地の分割方針や、役所とのやりとり等、建物を計画する以前の段階からIYsが関わり、新築する建物の計画に合わせて土地の区割りなどを調整する相談も請け負った。インフラの整備や自治体によって異なる開発要件等、こうした細々した調整は施主自らが行うことは非常に困難な部分が多い。また不動産屋や測量士、役所等もそれぞれが分業しているためプロジェクト全体を見通して統括する役割がいない場合、非常にややこしい事態に陥ってしまうこともある。設計事務所として、こうした部分の調整を当初段階から行ったことにより、新築の計画をスムーズに運ぶことができた。

「構造計画」
木造在来軸組工法を採用。1Fが天井の高い抜けのある空間としたので、壁量確保のため、各所に木やスチールのブレースを設置し耐震要素としている。ブレースは、隠すものというよりはむしろ、空間に積極的に露出されていて、大きな空間の中に奥行きをつくるような役割を担わせた。

「照明計画」
壁付けを基本とした電球照明を計画し、効率よく全体を照らすことで照明の総量を抑えている。LDK空間の天井にはなるべく照明はつけずに、綺麗な木目を損なわないように計画した。

「温熱計画」
窓をはじめとして外皮の断熱性を担保した上で、小屋裏の熱気をダクトにて基礎内に戻し室内へと放流することで上下階の温度差を解消し、基礎内部の熱を利用するエコな空調計画としている。

「外構計画」
家の周囲を庭やアプローチ等の植栽エリアとして、室内の窓から緑が見えるように計画している。庭のデッキや芝生、目隠しの塀はメンテナンスを考慮し、なるべく自然に近い素材感の人工素材を採用し共働き夫婦の負担を軽くするように計画した。

所在地:神奈川県鎌倉市
用途地域:近隣商業地域
規模:約107.64㎡
主用途:住宅+仕事場
竣工:2023年
意匠計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
照明計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
構造設計:川田知典構造設計
施工:株式会社坂牧工務店
写真:渡邊 聖爾

主な素材
屋根:コロニアルグラッサ
外壁:軽量ラスモルタル+アクリル樹脂系塗装
サッシ:アルミ樹脂複合サッシ ペアガラス/Low-eガラス/アルゴンガス
内壁:ビニルクロス、OSBボード、LVL
キッチン:大工造作+塗装
床材:オーク突板複合フローリング、グレー塗装、クリア塗装

設計期間:約6か月
施工期間:約6か月

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