WORKS

凸凸天井の2世帯住居

toshimaku,2022 house

OVERVIEW

「都心の密集地に2世帯住宅をたてる」

古くなった住宅の建替えの計画。敷地は、都心の駅に近い密集地。周囲には、中高層のマンションがちらほらとある中で、古くからある木造住宅も多く残っていた。

本敷地も、同様の古くからある木造家屋で、世代交代のタイミングで別の場所に住んでいた息子様世帯が実家へと戻り、新しく2世帯住宅として建て替える計画であった。

古家は、施主のお父様が彫刻家だったので、天井の高い吹抜のアトリエと、多くの彫刻が残されていた。またお母様が集めていた小さな小物があり、それらを飾る棚を設けることや、一部の彫刻を収蔵する場所が求められた。


建替え前の家。中高層のマンションが立ち並ぶ中、低層住宅が混在する

「防火地域に木造で建てる」

敷地は、幹線道路と近いこともあり、都市計画で防火地域に指定されていた。防火地域とは、商業地域などの密集して高層に建物を建てる前提があり、建物の仕様も鉄骨造やコンクリート造等の耐火性の高いものが求められる地域だ。

当初私たちに相談があった時も、施主夫妻は、木造では建築できないかもしれないと考えていたが、木造以外の鉄骨やRC造の場合は、小さな住宅程度の大きさの場合、建築躯体にかかる費用が割高になる。私たちは、防火地域でも木造で建築が可能であることを提案し、全体的な予算のことも踏まえて、木造で建築する流れとなった。


用途地域の凡例:都心の都市計画では細かく用途や防火の制限が定められている

一方で、防火地域に建てる場合は、すべての木造が建築可能であるわけではなく、いくつかの制限がある。

1つ目は、準耐火建築物であること。(火災が起こっても45分間は倒れない性能。)
2つ目は、2階建て以下且つ、延べ面積が100㎡以内であること。

1つ目は、一般的な木造の3階建ての仕様と変わらないので、制限としてはクリアしやすい。ただ、2つ目の延べ面積100㎡以内という制限は、2世帯住宅をつくることや、多くの収蔵庫を設けなければならないことを考えると難しい状況であった。

「延べ面積に入らない床をつくる」

制限で求められる100㎡以内の住宅に、収蔵庫や居住スペースを含めた多くの床を確保したい。そうした与条件から、延べ面積にカウントされる床ではなく、延べ面積にカウントされない床を多くつくることを考えた。

建築基準法における、延べ面積は、おおまかには室内の床の合計値だ。ただ、一部屋根裏のスペースなどの天井高さの低いもの(1.4m以下)に関しては、延べ面積にカウントされず※1、余剰スペースとして扱われる。各自治体ごとに、その余剰空間の定義に差があるので審査機関と相談しながら、こうした余剰の床を積極的につくるようにプランを練っていった。

※1:この延べ面積に入る入らないという部分は、定義がややこしく、例えば駐車場や備蓄倉庫などの延べ面積緩和があるものはあるが、今回の100㎡以内の延べ面積という部分で考えると、緩和を受ける前の状態が100㎡を超える時点で、不適合となってしまうため、そうした面積緩和を使うことはできないので注意が必要。


延べ面積に入らない床をつくる。小屋裏収納など

床にカウントされない余剰スペースは、天井裏のスペース以外にも床と床の間の空間も余剰空間として扱うことができ、本計画でも、1Fと2Fの間に余剰スペースを大きく取り込んだ。結果として、人がいる居住空間で100㎡を確保し、彫刻や書類などの小物収納は、天井高の低い余剰スペースへ持ち込むことで、全体としては、30㎡程度の余剰空間を確保することができたので、想定していた収納のほとんどを格納しつつ、居住スペースも確保している。

「余剰空間が生む立体空間」

また、断面的に余剰空間をつくることで、各階にはスキップフロア状の段差が生まれる。そうした段差が各機能を緩やかに分節しつつ、全体としてはワンルームのような空間となった。LDKと書斎、寝室は一続きの空間だ。

「3層の凸型天井のある2階建て」

本計画では、木造想定のために2階建て以内の建築が必須となるが、高さ方向に関しては低層住居地域のような制限はなく、むしろ都市の防火エリアをつくるという理由で、最低高さの制限が設けられていた。2階建てだからといって、高さを抑える必要はないので、むしろ2階建てだが3階建てのような高さを持った空間をつくり、その立体的な側面から1階の居住スペースへ採光するように考えた。余剰空間による、スキップフロア状の空間構成を立体的に上部へ拡張し、凸型の天井面が連続しながら広がる空間をつくった。

立地が駅に近いため、面する道路に人通りが多いことや、同居するお母様は足が不自由で一人で歩くことも難しいため、家の中にいても外で出歩いているような開放的な感覚を得られるのではと考えた結果だ。


余剰空間の段差と頂部の塔屋が立体的な空間をつくっている

約9mの天井高さは、住宅では見慣れない教会のような高揚感のある空間だ。上部からは曇りでも柔らかな光が下階へと落ちる。段差のある立体空間は、もう一匹の同居人の猫にとっても居心地が良いようで、各フロアを天候や温度によって移動しながら暮らしているとのこと。

私たちは、都心の密集地に住宅を設計することが多いが、都心の住宅ではいかに周囲からのプライバシーを確保するかという点と、その逆のどれだけ明るく開放的につくることができるかという2つの相反することを考えることが多い。本計画でもその相反する条件を考えながら、防火地域における木造の制約の中でできる最大限の空間と、明るく居心地の良い居場所を設計することを心掛けた。

なお、設計中はコロナ真っただ中で、施工時にはウッドショックのための資材高騰に見舞われたが、施主ご家族の寛容な対応と工務店の助けもあり、最小限の予算超過と、少々の工期延長で無事完成しお引き渡しすることができた。

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「外観計画」
角地の敷地で道路側とも近い配置であったため、周辺への圧迫感を減らすため、上方へいくほど、段々と小さくなる外形とした上で、色調の明度を高くし、実際の高さよりも小さく、圧迫感の少ない外観となるように配慮した。

「家具計画」
キッチン、テレビ台、洗面台、本棚等、ほぼすべての家具を大工による木造作工事とし建築計画と一体感のある家具とし、照明も家具に組み込んだ。照明などインテリアは、ミッドセンチュリーの家具が好きな施主ご家族のコーディネート。

「構造計画」
木造在来軸組工法を採用。凸型の屋根面と壁面を合板で固めることで、地震力を下階へと伝達している。

「温熱計画」
窓をはじめとして外皮の断熱性を担保した上で、小屋裏の熱気をダクトにて基礎内に戻し室内へと放流することで上下階の温度差を解消し、基礎内部の熱を利用するエコな空調計画としている。

「外構計画」
遊歩道との隙間に、約1m巾のテラスを設け、お母様のベッドから植栽が見えるように計画した。夜は照明により室内がテラスまで拡張されたような感覚をつくる。また、2F部分には、ルーフテラスを設け、外で涼んだりお酒を飲んだりできるスペースを設けた。

所在地:東京都豊島区
用途地域:第一種住居地域
規模:約122㎡
主用途:住宅
竣工:2023年
意匠計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
照明計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
構造設計:川田知典構造設計
施工:株式会社坂牧工務店
写真:渡邊 聖爾

主な素材
屋根:ガルバリウム鋼板
外壁:軽量ラスモルタル+アクリル樹脂系塗装
サッシ:アルミ樹脂複合サッシ
内壁:漆喰、シナ合板
キッチン:大工造作+塗装
家具:パイン集成材、シナ・ラワンランバーコア+塗装
床材:オーク挽板複合フローリング

設計期間:約7か月
施工期間:約6か月+外構

――――施主の声――――

母と同居するために実家の建て替えを検討している際にIYsさんのHPを見つけて制作事例にあった空間造りと素材感を大切にしている雰囲気に強く惹かれました。

打合せの際には、斬新なプランや予算感に合わせた提案をCGや模型を使って分かりやすく説明していただき今までボンヤリとしていた家づくりが具体的にイメージできた気がしました。建て替えに対して色々不安な部分があったのですがとても心強く感じました。

プロジェクトの進行中も素早い対応と熱心なサポートをいただき、井上さんと吉村さんの専門知識と技術には本当に感動しました。猫ちゃん用のトイレスペースや彫刻の収納と展示スペースなど素人考えのアイデアを色々相談させていただきましたが、的確に理解して、優れた解決策を提供していただき大変満足しています。

コロナ渦やウッドショックの中で色々苦労があったと思いますが、本当に素晴らしい設計をしていただき、ありがとうございます!思い描いていた以上のものを作り上げてくださり母と夫婦共々感謝の気持ちでいっぱいです。※houzzより引用

――――設計者からのコメント――――

貴重なレビューありがとうございます。お建て替えの場合は、古家の思い入れもありますので、元々あった家の雰囲気みないなものを残したいなとぼんやりと考えておりました。色々とご提案させていただく中で、河野様のアイディアも加わり見たことのないようなダイナミックな空間と素材感のある心地よい明るい家がつくれたと思っております。そして、何よりも、同居されるお母様が建て替わった家に入った際に、目を見開いて嬉しそうにされていたのが、設計者としてとても嬉しく感じたのを覚えております。お母様の部屋から見える窓や、小さな小物置きの棚など、細かな造作工事も気に入っていただけたようで何よりでした。

お住まい後は、観賞植物やインテリアの小物など、新しい家の空間がより雰囲気アップするような感じで飾られており、元々の私の想像を大きく超えた心地よい空気が流れていて感動いたしました。お建て替えということで、解体からの長期間のお付き合いで、色々と大変なこともございましたが、こうして無事にお住まいになられていただき安堵しております。

これからも、河野様ご家族ならではのお住まいに、アレンジしていっていただければと思います。この度は、レビューいただきましてありがとうございました。