WORKS

都市型キャンプ式住居

建て主募集中,2022 house

OVERVIEW

都市に住むための新しい形式をもった住宅提案プロジェクト。

密集した住宅地に住宅を計画する場合は、そのほとんどが、周囲の街から自分の領域を如何にして空間として囲いとることができるか、といった価値観に基づいて計画される。なるべく周囲からは見えないように壁を立上げ、その中に生まれた空間を小分けにして、その数や量によって価値が測られる。なので、1つの敷地に対してたくさんの床を積み上げられる、容積率が高い土地ほど価値は高く、小さければ小さいほど価値は低くなる。

都市から自分の領域を切り取り、自分だけの空間をつくること。それが住宅の計画で求めらる大部分の考え方だ。特に建売住宅にみられる、3LDK、4LDK等、部屋数や床面積で価値を測る傾向は、選ぶ側の視点が何を重要視しているかを読み取ることができる。一方で、囲いとって所有することだけではない価値感もある。都心に住む家族は、週末になると郊外へキャンプに出掛ける。自然にふれることや、火をおこして料理をすることは、決して便利ではないし何かを所有することによる満足感でもない、人間本来の動物的な感覚に戻る悦びなのだ。


キャンプの様子

キャンプするときは、周囲に壁などないし寝床になるテントも最小限だ。クローゼットもないし、テレビもない。でもある程度の生活は可能となる。少し雨がよけられるスペースと最小限の寝床があるだけ。自然とダイレクトにつながることができる簡単な装置さえあれば、人は満足できるのではないだろうか。都心に住む中でより便利さや豊かさを求めていく競争の中では、本来求めていない方向へと便利さが進化し、そうしたものが一般化されて住む人の共通認識が知らず知らずにできてしまっている。

本計画は、キャンプするように単純な区分けで、都市の自然とダイレクトに繋がることができる住宅として、昨今の住宅計画事情がもつ「囲いとって所有する価値観」ではない、周囲と繋がりながらシンプルに暮らすことができる住宅として計画した。


小分けになった部屋を取り去る

住宅としての規模は30坪弱程度だ。区分けになっている部屋という考えはやめて、上階の寝床とグラウンドレベルのオープンなスペースの2つのスペースを用意する。これは、キャンプに例えるならば、上階はテントで、下階は外の歓談スペースとなる。ただ、完全にオープンでは生活ができないので可動の間仕切りとカーテンで周囲の環境との距離を調節することができるようになっている。


大きな屋根裏とユカシタを持つ断面

1Fは少し堀込まれたスペース。リビングとして使うこともできるが、リビングというよりももっと単純な広場的な空間だ。天気の良い日に開けておけばほとんど外になる。そこでカフェやバーや小売店をしてもよいようなスペース。コロナの影響でリモートワークが広がっている中で、家に居ながら仕事をしている人は年々増加していくと、従来の居住エリアとオフィスエリアが明確にわかれているような街ではなく、住宅街にもぽつぽつと小さな商業エリアが表れてくると考えている。その場合、住居自体もすべてが周囲から切離されたものではなく、その一部を街に開放できるような構えを持つほうが自然であると考えた。

上階は、小屋裏が肥大化したようなスペースだ。本計画の場合は、横に窓はないが天窓によって採光している。屋根面にも窓を備えることは可能だ。こちらのスペースは、キャンプで言えばテントの中のような空間だ。仕切りはなく、大きなスペースがあるのみ。カーテンで仕切ってもよいし、壁を後から足してもよい。四角い部屋をたくさん作る計画ではなく、テントのようにシンプルな空間をざっくりと計画することで、様々な変化に対応できるスペースとしている。屋根形状を生かした斜めの空間は、密集地での斜線制限を想定しており、斜線制限を交わしながらその形状を生かした空間としている。

3LDK,4LDKといった数をカウントする価値観では、本住宅のような最低限の2つのスペースしかない住まいはなんの価値もなくなってしまいそうではあるが、従来の部屋の集積による家とは異なる、空間的な体験や周囲の自然環境との新しいポジティブな関係を享受することができる。従来の住宅計画であたりまえに思われている自分だけの領域を囲いとって所有することによって生まれる価値感ではなく、むしろ所有せずに、周囲にたいして開くことで、これまでとは全く異なった、街と住宅、人と人との関係が生まれるのではないかと考え計画した。

コロナや紛争等、今世界は大きな転換点に立っている。急速に拡大した人間社会が地球環境を変え、その歪が逆に人間社会へと返ってくることで、これまでのパワーバランスが崩れ様々な異常な現象(人間にとって)がこれからもより多く出現するだろう。そんな時代に求められる価値観とは何か、、、キャンプのようにシンプルに暮したい。意外とみんなそう思っていたりするのではないだろうか。何かを求めることを否定するのではなく、ちょっとした住宅というハードの変化によってでも、その求めるものの矛先が少しだけ変わって、自然や環境に対する結びつきへとつながっていくことができるのではないかと考えた。

本住宅は、計画地が未定の架空プロジェクトですが、ある程度の広さがとれる場所であれば汎用性が高く多少のプラン修正で敷地に追従し計画することができるので、建て主募集中です!ご連絡は、IYsまで。

受賞:三栄建築設計住宅競技設計「松原住宅」審査員特別賞 木下庸子賞