WORKS

交錯線のワンルーム住宅

setagaya,2021 house

OVERVIEW

「変形地の活かし方」

夫婦と子供のための新築計画。

敷地は、都心の低層住宅街。南側に広めの道路が接道して間口も広い。都心の立地としては良好な条件であったが、一方でほぼ矩形の土地に送電線の鉄塔の敷地が食い込んでいて、計画地の一部が切りかかれており変形した敷地形状となっていた。


南接道の好条件の立地奥に鉄塔が見える

土地を検討する段階から関わっていたため、この土地に希望する要望が入った家は建てられるのか?といった疑問に答えることから設計はスタートした。計画地は、一部が鉄塔の敷地に抉り取られているものの、残りの部分はある程度広々としていたので、えぐられていた部分を空地として生かす等すれば普通に建てられるだろうという想定から、本計画地に建てることを決め計画が進んでいった。


敷地の一部に送電線の鉄塔が食い込んでいる

住まいに対する要望は、在宅勤務が多いこともありワークスペースが必要であることや、広々した明るいLDK空間、個室を2つ以上つくること等。メインの寝室は区切らなくてもよいことやリビング位置はプランによりフレキシブルに考えていただけることもあり比較的自由にプランの構想を練らせていただいた。

「異なる線の交錯が生む空間」


交錯する空間のイメージ図

本計画地には、いくつかの線がある。ひとつは、敷地境界を決定する街区の線、もう一つは敷地に食い込む送電線の角度が振れた線、また目には見えないが、法規的に家の高さを決定する斜線制限だ。


建物形状を規定する線

最初の2つは平面的な形状を決める線で、それぞれの合理性の中で決められる線で、斜線制限は建物の断面を規定する線。冬場の太陽高度を基に決められている。通常は敷地を決定する街区の線と、法規的な斜線制限により家の形状が決まることが多いが、本立地ではさらに送電線による別角度の線が交わっている。いくつかの交錯する線をどのように扱うかが、建物の平面や断面を計画する上で重要なポイントとなった。

鉄塔に対しては、施主夫妻からはなるべく見えないようにしてほしいという要望が最初にあったが、私見では、鉄塔は更地の状態で遠くからみると圧迫感があるものの、逆に近くで見ると足元は細い鉄骨が組まれているだけなので、意外と抜けがあり圧迫感を感じないことや、隣地の鉄塔部分には今後建物が建たないことを考えると、半永久的に日照が確保できる方角と考え、逆に建物を鉄塔側に目いっぱい近づけることで鉄塔の足ものと抜け感を生かしながら日照も取込めると考えた。これにより道路側の南側空地も生まれ前庭のような空間ができる。


配置検討。他にもいくつかのパターンを検討した

いくつかのプラン検討をしたうえで、最終的に住宅街の直交する街区グリッドと、40度ほど振れた鉄塔敷地のグリッドを交差させその斜めのズレを住空間に同時に入れ込むプランを考えた。直交する街区割からくる敷地形状と、異なる角度に振られた鉄塔の食い込みが、住空間に様々な角度の多様な空間的広がりを加えると考えた結果だ。


送電線の通る線を平面に重ねた

住宅街の直交するグリッドと、街区とは無関係な送電線の角度が振れた線、更に法規的にかかる断面的な斜めの線が屋根の形状を規定し、平面も断面も直交する線が殆どない、起伏しながら連なるワンルーム的な空間となった。リビングやダイニング、ワークスペース、寝室等は、壁で仕切られるのではなく、起伏する空間がスキップフロア状に緩やかに分節されながら、それぞれの場所が連なっていく。天井高さ70㎝から4m強まで、斜めに繋がる場所もあれば、フラットな天井もあり、日当たりのよい場所もあれば少し暗い場所もある。部屋ではなく場所としての雰囲気がその部屋の領域をつくるような感覚だ。


様々な天井高さが続く空間

住宅やオフィスビル、学校や病院等、私たちは四角く直交する空間に慣れ親しんでいる。四角い立方体の部屋は人がつくった人工的な空間であり経済的な合理性がある形だ。一方で、私たちが普段出歩く街の路地や公園や自然では、直交する空間は意外と少なく、殆どが歪で曲がったり、段差があったりくびれたりする空間の連続だ。私たちが心地よいと感じる空間は、公園や街中の路地等の何気ない空間で、本住宅でもそうした人工的な建物にはない、「自然がもつ空間の質」のようなものを住まいの中に取込めるのではないかと考えている。

送電線が通る線の合理性と、住宅の街区がつくられる合理性。そして高さを規定する法規的な線。全く別の視点から規定された線が本敷地内で交錯し、プランとして重なり合うことで生まれる空間が、新しくもありどこか人間にとって根源的な空間の心地よさをつくる。

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「構造計画」
床がずれながら連なる空間を意図したため、床の厚みは最小限にしたいことや、断面的な抜け感を生かすことを考慮し、最上階と2Fの床は、棟に設けた大きな登梁から鋼材によってつられる構造とした。これにより床の厚みを薄くし、床がずれた箇所の隙間に太い柱がでないように工夫している。

「照明計画」
全般的に2400~2700Kの色温度のLEDにより計画し暖かみを重視した計画。可能な限り照明の数はしぼり、広々と広がる起伏ある空間を生かすために空間の壁面を効率よく照らすように各照明を配置している。各種照明は調光できるように計画してあり、シーンによって明るさをコントロールし、様々な楽しみ方ができるように考慮している。

「施工計画」
ななめに交わる交点が多いため、既製品の家具では納まりが悪いので、キッチンの家具を含めたほとんど家具は大工の造作により現場制作され、ななめの部分を無駄なくいかした計画としている。施工についても、直交する仕口が少ないため3Dに交わる交点を処理できるプレカット技術を利用し、構造材を組むことで特殊な屋根形状を成立させている。

「温熱計画」
断面的にワンルーム的に繋がる空間であるために、1Fに温水式床暖房を設置しその熱が自然に上方へ上がることで上階の空間を温め、小屋裏内部に設置した集熱ファンによって集熱した熱気を、ダクトにより基礎内部に戻しまた1Fへと放流することで、上下階の寒暖差を緩和し、空間全体を一定温度に保つようにしている。大きな空間ではあるが、外皮の断熱性を高めることで冬でも快適に過ごすことができる。

所在地:東京都世田谷区
用途地域:第一種低層住居専用地域(準防火地域)
規模:約100㎡
主用途:住宅+仕事場
構造:木造2F、在来軸組+構造構造パネル+制振ダンパー
竣工:2021年
意匠計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
照明計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
構造設計:川田知典構造設計
施工:株式会社坂牧工務店
写真:渡邊 聖爾

主な素材
屋根:ガルバリウム鋼板
外壁:軽量ラスモルタル+アクリル樹脂系塗装
サッシ:アルミ樹脂複合サッシ(ペアガラス+LOWeガラス)
上裏:インテリアラーチ+オイル系クリア塗装
内壁:ビニルクロス、ラーチ合板、LVL等
キッチン:大工造作、天板:モールテックス
洗面:大工造作
床材:ホワイトオーク挽板複合フローリング
空調計画:第3種+空気循環設備

設計期間:約6か月
施工期間:約6か月

メディア:houzz.jp
メディア:アークテクチャフォト