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環状リビングの2世帯住宅

sagamihara,2022 house

OVERVIEW

「商業地に建てる2世帯住宅」

住宅の建て替え計画である。依頼主の両親が住んでいる古家を取り壊し、息子夫妻と両親が同居する完全分離型(後述する)の2世帯住宅をつくる計画だ。

計画地は、駅前の商業地である。

商業地に建つ計画地、近隣は3F~7Fの店舗やマンション、住宅が並んでいた

古家は、商店街に面している立地で元々はクリーニング店を営んでいたので、店舗としての役割を主につくられており、採光面や通風面が考慮されておらず、居住空間であるダイニングや居間に関しては、暗く風通しが悪い状態であった。


北側道路からみる古家

一方で南側は現状駐車場となっており、良好な日射が現時点では得られそうであることが確認できた。ただ、現状では南側は旧クリーニング店での作業場となっており、居住空間とななっておらず、せっかくの採光を生かし切れていない状態だった。


南側隣地の駐車場からみる


古家の明るい作業場

「2世帯住宅のゾーニング」

前述の状況を踏まえながら、計画を進めていく上で重要な点として2つをポイントとなった。

①2世帯住宅なので各世帯をどのように配置するか

②北側道路且つ、近隣は商業地ゆえに3F以上の高い建物が多く、それらを踏まえた建物配置を考えること

①の2世帯住宅の配置に関しては、具体的には、親世帯と子世帯の部屋の並べ方が主な検討事項である。今回の2世帯住宅は完全分離型で3階建てとなる。完全分離型とは、玄関や水回り全てが世帯ごと別々になる構成だ。各世帯の並べ方は、以下のように検討した。

A:1Fに親世帯、2Fに親世帯と子世帯が半々に、3Fに子世帯の積重ねの構成

B:1Fに親世帯、2F3Fに子世帯の積重ねの構成

C:1~3Fに親世帯と子世帯が半々に並ぶテラスハウスのような構成

D:1Fに親世帯、2Fをテラスのような外部空間とした共用部、3Fを子世帯とした構成

上記A~D案をベースにプランを検討したところ、オーソドックスな形式のBタイプ、1Fに親世帯、2、3Fに子世帯という構成となった。

ただ、Bタイプの構成となった場合に懸念点として、南側の現状空地となっている駐車場が将来的に3F以上のマンション等に変わる可能性があり、仮にそうした建物が建った場合は、1Fの採光がとても悪い状態となる。②で挙げた採光面での配慮が必要となった。


南側隣地に高層建物が建つ場合の想定

現状は駐車場となっているので、南側からの採光は問題なく入ってくるが、本計画では高い建物が南側にも立ったとしてもある程度、採光面で有利になるように、建物形状を検討した。

「南側の空隙の計画」

将来的な南側の採光への考慮から、本計画では、2Fと3Fの建物ボリュームと南側隣地の間に一定の空隙を設けることで、仮に南側に高い建物が建ったとしても1Fにも2,3Fにも良好な採光が得られるようにと考えた。空隙は、想定建物が目いっぱいに建ったとしても4mは取れるので、ある程度の明るさは確保できる状態だ。


南側に空隙をつくる

また、道路側は、2F、3Fが逆に突き出たような形となり、1Fは大きな軒ができ雨を避ける計画となっている。この軒下部分は駐車場としても利用され、両親の仕事柄荷物の出し入れが頻繁に行われることから、大きな軒が大活躍している。

また、凹んでいる道路側の足回りは所々角材の隅をカットしたカラマツの角材を並べて、商業地の街並みに暖かな壁面をつくっている。玄関ドアは正面から両サイドに振り分けることで、玄関位置を離し両世帯ともに普段なるべく気を遣わずに生活ができるようにと配慮したデザインとなっている。

「2F、3Fの子世帯住居の計画」

親世帯含めた建物の大まかなゾーニングは前述のとおりで、逆に2Fと3Fの子世帯エリアに関しては、採光面でも面積的にも比較的自由度の高い計画とすることができた。

子世帯夫妻は、在宅での仕事も多く居住スペースとワークスペースが同居する生活スタイルであった。実際に生活するのは夫妻2人のため、このような性格の生活スタイルの場合は、大きな1つの空間をつくるというよりは、それぞれ1人でいても、2人でいても心地よく過ごせるくらいの中くらいの空間がいくつもあるような、空間をつくることを考えた。

「環状となった居住空間」

具体的には2Fをメインの居住エリアとして、階段を中心に、キッチン、ダイニング、ワークスペース、ラウンジ的な空間、水回りを配置している。


階段を中心に様々な機能が環状に繋がる

住宅によくあるリビングというようなTVとソファがセットになっているような場所はなく、ラウンジと称したちょっとお酒を飲みながら歓談できるような場所をワークスペースの横に設けている。

各スペースは、6畳から10畳程度のこじんまりとした空間が壁を隔てるのではなく、収納家具や階段を隔てながら緩やかに繋がり、環状にぐるぐると回遊できる構成となっている。

南側にはダイニングやキッチンを配置して、高い勾配天井と大きな窓を配置して明るい広々とした空間として、北側の道路側にはワークスペースやラウンジ、水回り等を並べた籠った空間として落ち着けるサイズの空間とした。


天井の高低差や明暗のある場所が緩やかに繋がる

一日の中で、仕事をしたり食べたり、飲んだり、TVを見たり、お風呂上りにビールを飲んだりと、様々な行為が行われる中で、常に2人が同じ空間にいることを想定せず、別々にいながらも緩やかにつながり気配が感じられる程度の適度なつながりを意識している。

そうすることで、より心地よいパーソナルなスペースがつくられると考えた。

インテリアの仕上げは、ラワン材をメインとして木の塊をくりぬいたような仕上げとした。落ち着いたラワンの色合いが、居心地の良さを更に演出してくれている。逆に床材は樹脂タイルとしてオフィスのような清潔感もありつつ、家と仕事場の中間のような雰囲気を目指した。

本計画は、最初の問合せでの面談から実際にスタートしていくまで長い空白期間があり、様々な検討の上で依頼をいただき設計し完成することができた。当初施主夫妻は、予算を含めた検討で2F建てにしかならないのではとの懸念をしていたが、私たちと全体の資金計画から見直し全体の計画を総合的にすることで、当初想定したいたよりも大きく使い勝手の良い住まいへと立替えることができた。

施主の両親、施主夫妻ともに2世帯が満足できる住まいとなったことをとても嬉しく感じており、元々建っていた古家の痕跡である柱を一部照明につかったりして、古いものを新しく受け継ぎながら、新しい街並みをつくることができた。


古家の柱を加工した照明(棚の上)

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「構造計画」
木造在来軸組工法で、2F、3Fが大きくはね出している部分は、長期のたわみを考慮した大梁を持ち出す形で無柱としている。2F3Fの吹抜部分は、風圧に耐えるため、壁柱を厚いところで150mmとして梁のない吹抜空間を設けた。

「照明計画」
全般的に2400~2700Kの色温度のLEDにより計画し暖かみを重視した計画。可能な限り照明の数はしぼり、広々と広がる起伏ある空間を生かすために空間の壁面を効率よく照らすように各照明を配置している。各種照明は調光できるように計画してあり、シーンによって明るさをコントロールし、様々な楽しみ方ができるように考慮している。

「遮音計画」
2世帯が断面的に接する計画であるため、木造の弱点である音の伝わりを可能な限り少なくするため、遮音材やグラスウールを床、壁等に重点し、上階の音が下階に伝わりずらいように計画している。

所在地:神奈川県相模原市
用途地域:近隣商業地域(準防火地域)
規模:約145㎡
主用途:住宅+仕事場
構造:木造3F、在来軸組+構造構造パネル
竣工:2022年
意匠計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
照明計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
構造設計:川田知典構造設計
施工:株式会社坂牧工務店
写真:渡邊 聖爾
加工照明:NEW CLASSIC

主な素材
屋根:ガルバリウム鋼板
外壁:窯業系サイディング、カラマツ角材(共栄ランバー
サッシ:アルミ樹脂複合サッシ(ペアガラス+LOWeガラス)
上裏:カラマツ角材+オイル系クリア塗装
内壁:ビニルクロス、ラーチ合板等
洗面:大工造作
床材:ラワン複合フローリング、樹脂タイル

設計期間:約10か月
施工期間:約6か月

施主の声:初めての家づくりで躊躇する部分も多かったのですが、IYs様の適切なリードのおかげで無事素敵な新居に住めるようになりとても満足しております。お会いするたび、斬新なアイデアやこちらが想像もつかないようなご提案をいただけるので、毎回の打ち合わせを楽しみにしていたことも今となっては懐かしく感じます。(雑談しながらも間取りをスルスルと楽しそうに描かれる井上様の姿が印象的でした。笑)振り返ってみると、こちらから強いこだわりを伝えていたわけではなかったのですが、なんとなく「居心地の良さ」を各所で感じられるのは、何気ない会話や私たちの雰囲気から感じ取ったものを空間に反映いただいていたのだろうなと思います。

着工後も、監理を担当いただいた吉村様にはきめ細やかにご対応いただき、最後の最後までおんぶに抱っこ状態で頼ってしまいました。(お忙しいところ本当にすみませんでした!!)また、工事を担当いただいた坂牧工務店様にもとても丁寧に作業していただきました。工期中も近隣の方からの評判もよく、突然現場にお邪魔しても暖かく迎え入れてくださいました。井上様・吉村様はじめスタッフみなさまお話や相談もしやすい雰囲気で、親身になって相談に乗っていただけます。また新築を建てる機会があればぜひお願いしたいと思える設計事務所様です!(財力が許せばですが。笑)この度は大変お世話になりありがとうございました!※houzzより引用