WORKS

大回廊の住居(マンション改修)

Kanagawa,2023 house

OVERVIEW

都心に近いベッドタウンにある築35年の分譲マンションの改修計画である。古い内装をスケルトンにして、フルリノベーションを行った。

計画物件は、現在の多くみられる小割の分譲マンションではなく、1つの住戸の延べ面積が100㎡以上の比較的大きな戸割となっており、本物件も専有面積にして約145㎡と広々とした面積を有していた。更にマンションの角に位置していたので、採光面でも申し分ない状態だった。

一方で、その大きさ故に既存住戸内は薄暗い廊下が長く続き、部屋数は多いが小分けになっていて、全体としての広さを感じられない状態であった。フルリノベーション後の計画としては、角地の採光を最大限LDK等の居住空間に入れ込むことと、なるべく長い廊下を何かしらのポジティブな空間要素に変換したいと考えた。

「廊下を肥大化させる」

夫婦と子供4人家族、リモートワークも多いし子供の遊び場もほしい、また家の中でリラックスできるスペースもほしい。計画中は、コロナの影響下にあったため、住居内には、住む以外の部分も多く含まれた。

プランを計画していくうちに、難しいところがいくつかあった。1つは長い廊下の発生だ。マンションは平面に広いのでどうしても廊下の発生が必須となる。ただ、この廊下が面積を多く専有してしまい、暗く長い空間がマンション住居の印象をつくってしまうのだ。

本計画では、この廊下部分をいっそのこと少し大きくして、廊下ではない居住空間の一部として扱うことを考えた。肥大化した廊下は、待合のベンチや、読書するラウンジ空間、子供の遊び場へと姿を変え、小さなエリアが数珠つなぎに連続する空間を計画した。各エリアは、見通せないように雁行させながら、街角の一部ような雰囲気となるよう計画している。


廊下を肥大化させて回廊式の居住エリアにする

当初は書斎や寝室は囲まれた部屋としたが、子供部屋は当初はオープンな空間として、この数珠繋ぎの居住空間に属して計画している。

また、もう一つの難しい点は、大きな梁の存在だ。マンションの構造は、おおきな住戸割のためSRC構造(鉄骨鉄筋コンクリート造)であったので、大きなスパン割によるプランの自由度が確保されている反面、梁下の小さいところで2m程度となるところも存在していた。

そして、現代のマンション計画に照らし合わせた際に、下階住戸への音の問題を加味すると、現状床からさらに100mm程度は上げる必要があり、梁下で1.9m程度と低いものとなってしまう。

この低さは数字だけ聞くと、ネガティブな印象を受けてしまうが、本計画では、この大梁自体も空間の起伏と捉えて、ダクトの配管や配線を梁と一連に計画し、天井の高低差を意図的につくった。リビングやダイニング等のわかりやすい空間のまとまりは、この大梁で緩やかに分節されるように計画し、また子供のエリアや休息するスペースでは、その天井の低さをポジティブに利用して、籠った雰囲気の落ち着いた空間を計画した。


大梁に絡めて設備を計画し、空間の起伏をつくる

ぼぼ全てが一連の空間として連続しているので、マンションの起こりがちな光の明暗の落差はなく、むしろグラデ―ショナルに連続しながら、光の明暗や天井の高低差が緩やかな空間の起伏をつくっている。

子供たちは、回遊する廊下をはしゃぎながら駆け回り、大人たちは緩やかに異なる回廊の中で、ゆったりと過ごすことができる。1つの平面の中に、様々な日々の行為が内包されながら一連の空間としての緩やかな連続性を保っている。

「収納計画」
マンションにありがちな少ない収納量を避けるため、躯体の柱の凹凸や、暗くなりがちな場所を積極的に納戸やつくりつけの収納として計画した。

「照明計画」
壁付けを基本とした照明計画で、効率よく全体を照らすことで照明の総量を抑えた。

「温熱計画」
日当たりのよい、住戸であったため戸建てほどの断熱性は考慮していないが、各窓はアルミのシングルガラスであったため内窓としてペアガラスの木製サッシをとりつけた。

「空調計画」
平面が広いため、窓際のペリメーターゾーンと、内部エリアの温度差や空気の循環が悪くなることを考慮し、ペリメーターゾーンと内部エリアを空気の循環器を用いて空気の循環を図っている。

所在地:神奈川県
用途地域:第一種住居地域
規模:約145㎡
主用途:住宅
竣工:2023年
意匠計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
照明計画:IYs-Inoue Yoshimura studio-
施工:株式会社坂牧工務店
写真:渡邊 聖爾

主な素材
内部サッシ:木製サッシ
内壁:特殊塗装
天井:LVL
キッチン、洗面:家具屋による造作
棚関係:針葉樹合板
床材:樹脂タイル、リノリウム
サウナ:フィンランドサウナジャパン
照明器具:towards、new light pottery、daiko、etc

設計期間:約6か月
施工期間:約8か月