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建築費。何にお金がかかるのか?~コストを抑えるのも設計力~

diary

IYs井上です。

最近様々な金額が値上がりしていて、建築業界も万博の予算増が問題になっているように、同じ問題を抱えています。特に、慢性的な職人不足や、材料の安値どまりが長い間続いていた反動が、今になって噴火しているような気がします。そんな中ではありますが、今でも様々なプロジェクトを進めていて、常に予算配分、予算調整を行っています。

先日、建築家の集まりがあった際に、あるプロデューサーの方から、

「どうやってコスト調整しているんですか?」

と聞かれました。

コストでの悩みはみんな同じですね。今は、業界の値上がりと施主の感覚がだいぶ乖離している状態で、数年前の感覚が今は全く通じないというのが現状なのですが、日々予算の調整はくぐり抜けています。

私は、設計事務所での経験もありながら、作る側のディベロッパーに在籍していた経験もあり、建物の価格がどのようにして高くなっていくのか、また、安くなるのかを恐らく普通の建築家よりは、多く知っていると思いますので、私がわかる範囲で書いていきたいと思います。

まず、費用に起因する要素を上げてみたいと思います。
おおまかにいうと、下の4つ。

1、設計内容(建物形状、プラン形状、仕様)
2、つくる会社(工務店、ゼネコン、ビルダー)
3、立地(工事のしやすさ)
4、付帯費用(造成、インフラ、外構)

上の4つの中でもさらに細かく分かれますが、費用にかかわる部分は大きく分類するとこの4つ。

設計内容については、一番要因が大きいのですが、2,3,4について先に説明します。

「2のつくる工務店等について。」

世の中には、地元工務店、ハウスメーカー、ゼネコン、パワービルダー(建売等)がおおまかにあるのですが、同じ建物でも建てる会社によって大きく金額が変わります。

仮になんの変哲もない木造戸建てをつくることを前提とすると、

ビルダー<地元工務店<ハウスメーカー<ゼネコン

となります。何故ビルダーが安いかといえば、同じものを大量に発注するのでコストが安くできるということがあり、ゼネコンが何故高いかというと、中大規模の建物になれているので、下請け工務店を使うことになるでその分の経費が上乗せされます。

一方で、会社によっては細かな指定がある案件は、対応できる職人がおらず対応ができないということも。決まったものを大量につくることになれているのがビルダーや、自社の仕様しかうけつけないハウスメーカーもそうした個別の対応は難しくなります。

工務店も、各社により特徴があります。自社で設計も施工も行う所、施工しかしないところ等。自社で設計と施工をしているところは、比較的安価に建物を建てられる傾向がありますが、一方である程度の規格化を行っており、ビルダーと同様に難しい案件には対応できないこともあります。

工事のみ行っている工務店は、地場の個人で小規模なリフォームを請け負っている職人の方だったり、腕の良い職人が集まっていて特殊な案件を多数施工している会社もあります。私たち設計事務所が依頼する工務店はこのようなスタイルの工務店が多くなります。

工務店によって、組織だっている中規模の所は品質は確かですが金額は高めです。社長自らが現場にでて働いているような工務店は、工程などフレキシブルな対応が難しいけど良心的な価格設定だったりします。設計図はかかないので設計者が全ての施主対応をすることになります。

次に、ハウスメーカーに関しては、自社で仕様を規格化し大量に展開することで良質な設備を安価に供給するというスタイル。メーカーの中にも高級志向のところもあれば、安価を売りにしている所もあります。

ハウスメーカーの場合、営業マンが「家を売る」という感覚が強く、この場合、設計するというよりは、高性能な設備付きの家を販売するという感覚なので、建築の設計知識のない営業マンが描いたプランでそのまま建てたりします。当然、ひどい内容になりることも。いくら設備がよくても全く動線計画もめちゃくちゃな家では、住みずらいですね。
営業マンが話だけ聞いて、別のセンターに集まっているキャドオペレーターが図面だけ描く場合もあります。この場合、話を聞く役割の営業マンが施主の話をきちんと理解していないと、作図担当まで要望がつたわらず1週間以上待った図面に、要望が全く反映されていないということもあったります。ハウスメーカーと家づくりをすすめていく場合は、これくらいのハードルがいくつもでてきます。

工事の件はこのくらいにして、次は

「3の立地について。」

建物を建てる立地によって、金額が変わるのは、工事のしやすさによるものが多いです。工事がしずらければ、経費が多くかかります。

例えば、道路が狭いところではレッカーが使えず荷運びや、誘導員などの人件費が高くなります。これを小運搬費用といいます。
幹線道路沿いでも、交通誘導員が大量に必要で、例えば工事の間約3か月誘導員が必要であれば、それだけで50万近く増額します。
商店街などの人通りが多いところも同様です。

また、山の上や崖の下など、物理的に工事がしずらいところでも費用は高くつきます。そうした土地は安く売られていることもあるので、いざ建築しようと思うと、高額請求が、、、なんてことも。

解体工事も重機が入れるかどうかによって、費用は大きくかわります。重機が入れない場合は手で壊すのですが、この場合の費用は重機と比べて3倍近くになることもあります。

一番安くたてられるのは、平坦な場所で工事車両が無理なく通れる5m程度の道路に接している敷地。

郊外では土地が広いですが、都心近郊では車が敷地内に止めれれば尚良い条件となります。次は

「4の付帯費用について。」

付帯費用は、直接の工事費ではない部分で発生する費用。

代表的なものを上げると、造成工事。例えば、道路との高低差があり擁壁を建てる必要があったりすると、それだけで数百万~数千万かかることも。

また、上下水のインフラ設備が整っていない敷地も、新規で宅地内部にインフラを整える必要がでてくるので費用がかかります。一般的には80~100万程度ですが、バス通り沿いで本管が道のど真ん中だったりすると、夜間工事となり、300万を超える費用がかかったりします。

そして、外構工事も建物以外の付帯工事ですが、敷地が広い場合にはそれだけ工事する費用もかかりますし、特に角地の場合はフェンス工事で費用がかさむことが多くなります。

このように立地や状況によって、コストも様々ななのですが、2、3、4については、敷地を選ぶ時の問題なので、設計で工夫することは難しいのですが、ある程度かかる費用を想定しつつ、設計していく必要がでてくるということになります。

この部分の増加分を加味していないと、設計後の予算調整に苦労することになります。

さて、本番は、

「1の設計内容について」

設計内容といっても多岐にわたります。大きく関わる部分を以下にまとめました。

・建物の形状
・設備仕様
・特注か既製品か
・細かな納め方
・工務店との関係

おおきな項目としては、上の5点ほど。

●まずは、建物の形状について。

建物の形状は、工事費におおきく関わります。
例えば、表面積。建物の外回りは、構造材、基礎、断熱、防水、仕上げ材等、様々なものが絡んでいます。
ロの字型をした中庭形式や、雁行した形は、表面積が増加し費用が多くなります。

また、1Fが大きく2Fが小さいもの、平屋のような形状に近い場合も、基礎と屋根の金額が多くなり、費用があがります。

同じ坪数だった場合、総二階の建物で表面積が小さいシンプルな屋根形状とすることが、形によるコストコントロールの一つです。昨今では、基礎の鉄筋が高いので、基礎面積をなるべく小さく抑えることは費用を抑えるポイントです。

また、
構造材についても同様なのですが、特に屋根の形状。
勾配天井というやねなりの空間の場合、ななめに梁がかかることになりますが、これが「登り梁」といって、一般的な水平の梁よりも加工費が高くなり、費用があがります。

そして、バルコニー。バルコニーは坪数には入らないですが、施工する面積にはカウントされますので、意外と大きなバルコニーを作ったりすることも費用が上がる要因となります。

大きな空間も、梁の高さが大きくなり、費用が高くなりやすいです。建物の形状は、なるべくシンプルな形としておく方が、内部にお金がかけられるのです。

形状については、
・シンプルな形状
・基礎は小さく
・スパン割は小さく
というのがポイントになります。

●次に設備仕様

設備仕様は、ピンからキリまであります。すべてを最新式の機器とすれば、あっと今に数百万の金額が。。。ただキッチンまわりに関しては、長く毎日使いますので、良いものをつかった方がよいと思っています。

水栓器具から、食洗器、洗濯機、乾燥機、、、こうした1つ1つの見直しで金額を落とすことは可能です。

●次に特注か既製品か

こちらは、キッチン、洗面、お風呂、ドア、窓、家具、、、色々と選択の余地がありますが、これらすべてを特注にすると非常に高額になり、すべてを既製品にすると、建売のように貧相になる危険があります。

このバランスがとても難しいのですが、この項目をうまくコントロールできると、見た目もよく、費用も安くつくることができます。

特に、キッチンについては家具屋さんで工事する家具と大工さんがつくれるものとで、金額差が大きく、その他の棚やカウンターなども大工さんで工事ができるものを増やすことで、費用を抑えることができます。

また、窓まわりに関しても既成のアルミ・樹脂サッシか、木製サッシかによっても費用は大きく変わります。木製サッシはアルミサッシの3~10倍もします。アルミ・樹脂の既製品の中でも特注寸法と既成寸法があり、特注は既成寸法の1.3倍ほどになります。

なので、既成寸法を把握しつつ、デザインに上手く組み込んでいくことができると、費用対効果が大きくなります。

内部のドアも同様です。

製作のドアと既製品のドアでは、費用は大きく変わります。ものによっては倍の金額に。ただ、木製のドアはとても質感がよいので、是非採用したいところです。外部のサッシまわり程金額差はないので、内部のドアを造作でつくるのはよくやってます。

お風呂は、造作風呂は既製品ユニットバスと比べると3~10倍。タイル工事や防水工事が入ってくると高額になりやすく、メンテナンスも大変だったります。

半分ユニットで半分造作というハーフユニットというものもあり、こうしたものを使うのも見た目と費用のバランスをとる1つです。

●次に細かな納まり
こちらは、家具や窓周り、外回りの寸法の指定など。すべてがぴったりと合う納まりは、大工精度を必要とし高額になる要因の1つです。特に外回りの防水がからむ場所は、無理な納まりをつくることで余計な費用が発生します。納まりに逃げがなければ、ないほど空間としては美しいものになるのですが、作る方からするととても大変なので、その分の経費が加算されます。

ある程度は、こだわり、そうでもないところは、作りやすく逃げをつくっておく、というのが、設計のポイントとなることも多いです。逃げが多すぎると、全体としてピリッとせず、空間のメリハリがなくなってしますこともあります。

このあたりは、かなりマニアックな部分なので一般の施主が指定することは困難かと思いますが、デザインに特化した設計事務所や建築家の場合は、こうした納まりが多いので費用が高くなる傾向にあります。

●最後に工務店との関係
当たり前なことなのですが、両者一玄さんの場合は、作り手側もどんなことが要求されるのかわからず、保険をかけた価格設定になります。設計のこだわりが多ければ多いほど、設計者の無理な要求を飲まざるを得ない状況も発生し、その分の経費的な費用がかかってきます。

逆に、工務店と設計者の関係ができている場合は、作り手側も、ある程度の施工費の予測がたてられるので、経費を削った金額の提示をしてもらえます。良好な関係であればあるほど、工務店も費用をぎりぎりまで頑張ってもらえるということでしょうか。

無茶苦茶な図面で、無理なお願いをするような建築家の建物は、費用が倍になったりするので要注意。きちんと成立する図面を描けてこそ、費用が抑えられるのです。

以上が、とても大まかなコスト管理の際に考えることですが、これよりさらに細かな検討事項があります。
設計は奥が深いです。。。が知れば知るほど、無駄を省きながら良いものがつくれます。

逆に知らないことによって、費用が大幅に高くなることもあるのが、設計です。
安くできればよいわけではなく、高額な特注設計ばかりするのがよいものでもないのですが、
誰に頼むか、何を重要視しているか、をきちんと確認した上で依頼先を決めていくことが重要です。

実際の減額検討になると、数百円単位で削れる内容を検討していくこともあります。
この作業は、前提となる見積もりが細かくでていないとできない内容です。

工事に対して一式見積もりのどんぶり勘定をするハウルメーカーやビルダーでは、上記のようなコスト調整はできず、やるかやらないかというアバウトな検討になりがちです。

拘りがあるものだからこそ、細部まで検討したいですね。長くなりました。

―ワクワクを1から考える家づくり―
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